不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

U.V./セルジュ・ジョンクール

Wanderer2005-08-02

 保養地でのヴァカンス真っ最中の金持ち一家。ただし不肖の長男は不在。
 その別荘に闖入してきた、長男の親友を名乗る男。彼は一家に異様に早くそして深く溶け込むが、長女の旦那(家業の番頭でもある)は男を怪しむ。彼の目的は一体何なのか?
 登場人物間の微妙な緊張が、徐々に物語を歪ませてゆくサスペンス。全編は詩情溢れる文章(というよりも、地の文は、明確かつ手短に事実を述べるという本来であれば期待される機能をほとんど放棄しており、情感の表現にのみ奉仕している)に特徴付けられている。人間感情を襞に至るまで描いている感じが一番の読みどころ。結論として、すらすら読めてそれなりに楽しめるので、洒脱な小品としては評価できる。ただし、私が作品から受けた印象そのものは薄く、3日後には内容を忘れている可能性が高い。結局、良くも悪くもお洒落なサスペンスということではなかろうか。嫌いじゃないですがね。