不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

鏡陥穽/飛鳥部勝則

鏡陥穽

鏡陥穽

 帯曰く、本格モダンホラー。とはいえ、登場人物が妙にミステリっぽい理屈をこねることがあるため、ミステリ読みの機微が通じないわけではない。更に、かなり進まないと超現実なのかミステリなのか確定せず、その間《事件》は基本的に検証・検討に晒される。どちらに落着するのか予断を許さないこの緊張感は、サラ・ウォーターズの『半身』同様、嫌いじゃないです。まあ『半身』は結局ミステリ側に落ちたわけだが、『鏡陥穽』は……自分の目で確かめてくだされ。
 内容そのものは、例によって怪作という印象。性格がねじくれている登場人物たち、もって回った会話や独白、グロテスクな情景を強調しつつも妙に淡白な地の文、絶対ストレートには展開しないストーリー。これら全てが、鏡にまつわる奇怪でいかがわしい雰囲気に徹底奉仕。いやあたいへん素晴らしいですね。この水準の作品であれば、「これが駄目でしたか? じゃ貴方はもう飛鳥部読まない方がいいよ」と読者を突き放すことができる。いやはや彼はまたもや傑作を出してしまったわけです。ファンは必読。