不壊の槍は折られましたが、何か?

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クドリャフカの順番/米澤穂信

クドリャフカの順番―「十文字」事件

クドリャフカの順番―「十文字」事件

 古典部シリーズ第三弾。
 カンヤ祭は、前二作『氷菓』『愚者のエンドロール』における極めて重要なファクターであった。登場人物を支配していたといっても過言ではない。巻を追うごとに時間も迫っていたのだが、そのカンヤ祭が遂に開催される。期待しないシリーズ読者など皆無である。
 『クドリャフカの順番』は全編、カンヤ祭(3日間!)を舞台とし、ハレの気に満ち満ちて進行する。*1様々なイベントやアクシデントが起き、登場人物は部単位でも個人単位でも奮闘するが、それも含め、このカンヤ祭は実に活き活きと描かれる。このような学園祭を私も体験したかった!
 古典部員による一人称持ち回りも素晴らしい。奉太郎も良いが、える・里志・摩耶花もそれぞれ異なった味のあるキャラであり、一人称で語り出すことで魅力が顕在化した。四つの視点から古典部を描くことで、思いの交錯も演出されており、キャラによっては苦しさや切なささえ垣間見せる。いとをかし。
 盗難事件の真相が見せてくれる地平もシリーズ随一。ただし、この動機でなぜこの事件なのかは、つながりが弱いように思う。瑣末事だがね。
 というわけで傑作。青春小説好きにはたまらないでしょうな。

*1:余談だが、これほど祝祭の雰囲気に溢れた作品を、我々は《日常の謎》と呼ばなければならないのだろうか。人が死ねば非日常なのか。大規模な文化祭で盗難事件が起きそれをネタに全校が盛り上がるのは日常なのか。人死にの有無で日常/非日常を区別することは、本当に妥当なのか。