不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

天の前庭/ほしおさなえ

天の前庭 (ミステリ・フロンティア)

天の前庭 (ミステリ・フロンティア)

 『へびいちごサナトリウム』でそれなりに印象深くデビューした、ほしおさなえの第二作。
 何の先入観もなしに(いいな、本当に何の先入観もなしにだぞ)読めば、今回作者が到達した地点が『へびいちごサナトリウム』よりも高みにあるのは明らかである。青春もの特有の軽さ・楽しさ・苦さ・哀しさは前作以上に明瞭に、そして綺麗に描かれており、話の流れもスムーズだ。オウム真理教を連想させるテロを起こした宗教団体も、話に有機的に結び付き、小説全体のしっかりした構成・ペース配分をいささかも阻害しない。キャラも前作以上に立っており、文章も元々うまいので非常に読みやすい。
 元来『へびいちごサナトリウム』も情報量の多い小説*1だったが、やや未整理・荒削りという印象があった。『天の前庭』はこれを見事に克服しており、《話の核》に限ってさえ構成要素は多いにも拘わらず、作者や登場人物の意図、話の推移ともに、軸がぶれず、これまた読みやすい。
 というわけで、なかなかの力作であると思う。問題は、先述の《何の先入観もなしに》読む人がどれ位いるのかだ。世の中の読者には、作品に何らかの《ジャンル》を期待する人が多いだろう。そういう読み方すると厳しいだろうな……。

*1:難解とか衒学的というわけではない。念のため。