不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シリウスの道/藤原伊織

シリウスの道

シリウスの道

 この作家初めて。サボり過ぎだな俺。
 広告の業務ネタと、少年時代の秘密に関する脅迫が、話の両輪。ところがこれ、つながりそうでつながならい。しかし散漫とか混線とかいった印象はなく、筆運びは非常にスムーズ、物語は最初から最後まですっきりと立ち上がっている。確かに人生って色々なことが並行して起きるけれども、並みの作家であれば小説の上でこうまでうまく処理できないはずだ。腕がいいとしか言いようがない。
 登場人物も印象深くて良い。アンダーグラウンド方面の登場人物のみ妙にメルヘンチックで(恐らく作者の意図に反して)影も薄いが、他の人々は着実に描きこまれている。特に広告業界近辺の人々は実に活き活きとしており、読んでいて楽しく、そして感心した。
 というか藤原伊織、文章うまい。絢爛・華麗な文章ではないが、彼の、専ら良い意味での健全な筆致は素晴らしい。すらすら読めて、それでもなお味があり、読者に伝えるべき情報もしっかり押さえてくる。いいものを読ませてもらいました。感謝です。