不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アルレッキーノの柩/真瀬もと

アルレッキーノの柩 (ハヤカワ・ミステリワールド)

アルレッキーノの柩 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 純粋で純真、おまけに好きな年上の少女に死なれてトラウマになっている、21歳の藤十郎という主人公が鬱陶しい。ていうか21歳なのに何ですかこの厨房っぽさは。これが世に聞くJUNEの受け手というやつですか。でも明らかに異性愛者なんですけど。自分の狭量でゲロアマな価値観に相容れない事柄に一々突っかかるのにも、たいへん苛々する。そのおかげで話が無駄に長くなるし。
 以上は「この登場人物嫌い」というだけだから、作品の評価には無関係である。しかし物語全体を見渡すと、看過できない問題がある。はっきり言えば、寄り道し過ぎだ。文章自体もそんな感じで、贅肉が多過ぎる。情感表現以外は、もっと簡潔に書いて欲しかった。ポエム読みたいんなら詩集買うぞ俺は。
 悪戯を目的とする由緒正しい倶楽部で出来する、奇妙な出来事と殺人事件。ここまでは無論問題ない。しかし、捜査を仰せつかった藤十郎は、これらに正面から挑まない(としか思えない)。代わりに、倶楽部員の公爵家にまつわる魔女伝説を延々と調べ始めるのだ。もちろんこの魔女伝説は事件と深い関わりがあり、結果的に間違った方向性ではなかったということになる。が、脅迫状とか殺人事件そのものの現実的な調査が申し訳程度なのはどういうことだ。また、登場人物は証言しなさ過ぎ。お前らがもっと喋れば話はスイスイ進むんじゃボケ、という要素があまりにも多い。
 しかし、ミステリ的に最も許しがたいのは、「藤十郎は、各会員に三回、真実を答えさせる権利を有する」という面白そうな設定があるのに、作者が全く活かせていない点だ。もちろんこの権利は会則上のものでしかなく、会員が嘘を付いている可能性はまるで排除できないのだが、それにしてもこの無意味さには泣けてくる。何の役にも立っていないどころか、そもそも藤十郎、この権利使ってません。ていうか、権利使わなくても普通に訊けそうな質問しかしてないのは、作者の無能さを証して余すところがない。自分で思い付いた設定使う能力ないんだったら、最初から出さない方が良い。
 というわけで、私はかけらも楽しめなかった作品。読み進めるのは苦痛でしかなかった。

 なお、こんなにムカつく帯は近年稀に見る。早川書房は社として、クリスティーセイヤーズ、マーシュ、アリンガムに土下座して謝罪すべきである*1

*1:一般従業員まで土下座しろというわけではない。法人・株式会社早川書房を代表するのは取締役の連中であるはずなので、取締役全員の土下座@イギリスの墓前を要求したい。俺が株主だったらブランドイメージに重大な損害を与えたとして、代表訴訟起こすね。なお、早川書房監査役には業務監査権限がないと思われるので、監査役には何も請求しません。ということでよろしく。