不壊の槍は折られましたが、何か?

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大尉のいのしし狩り/デイヴィッド・イーリイ

大尉のいのしし狩り (晶文社ミステリ)

大尉のいのしし狩り (晶文社ミステリ)

 晶文社のイーリイ短編集二巻目。
 前回はバカSFの大傑作も含まれるなどヴァラエティに富み、かつ、表題作に代表されるように、ネタのインパクトで勝負してきた作品が評判の中心となった。しかし今回は、何とも言えない奇妙な味付けが主眼となっており、普段はまともなのに、ふとした拍子に意味不明な行動に及んだり、狂ったりするといった、精神の間隙を衝くものが多数。「いつもお家に」や「登る男」「緑色の男」がドンピシャでこれに該当する。そんな中、表題作の「大尉のいのしし狩り」はむしろ例外的で、普段からおかしな人々が必然的な惨劇へ向かう様を抑制された筆致で描いている。
 全体的に、『大尉のいのしし狩り』は良質だが若干地味な短編集である。『ヨットクラブ』等でこの作家が気になり始めた人に。