不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

島崎警部のアリバイ事件簿/天城一

 第二短編集というわけだが、今回も徹底的に贅肉を殺ぎ落とし、鬼気迫るまでにエッセンスのみになった本格ミステリが揃っている。とはいえ今回は、鮎川哲也に対するオマージュのようなことを作者自身言っているし、前作のような渦巻くルサンチマンはなく、政治経済社会動向にまたがる奇怪な電波も強くない。前半のネタが鉄道アリバイものということもあって、前作に比べれば相当落ち着いた印象。後半も、精度の高いネタもあるにはあるが、前作の摩耶もののような「うわーすげーこいつオカシイ」という高揚感は得られまい。
 要するに、本格ヲタ以外の読者は「?」で通り過ぎる可能性が高まっている。高水準であることは幾重にも認めたうえで、私は本質的に本格ヲタではなく、よって気に入ったとは言い切れないことを告白しておく。以上。