不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

輝く断片/シオドア・スタージョン

輝く断片 (奇想コレクション)

輝く断片 (奇想コレクション)

 刊行ペースが最近間遠になっている奇想コレクションの新作。
 再登場となるスタージョン、今回はSF色がそれほど強くない。代わりに、奇妙な味とも、狂気・情熱のもっと直截な炸裂とも、作者の思想・理想の発露ともとれる、どちらかと言えばミステリ寄りの作品で構成されている。個人的には、『海を失った男』『不思議のひと触れ』の方が遥かに好みだが、これはこれで素晴らしい仕事だと言わざるを得ない。表題作と「マエストロを殺せ」は、劣等感に苛まれるキモメンが痛々しく描かれており実に鮮烈。「君微笑めば」はサイコ系の狂気を会話によって丹念に描き込んでゆく傑作であり、スタージョンはこういうのも書けたのかと目を見張った。「ミドリザルとの情事」はジェンダーに対する皮肉が利きオチもなかなか、でも展開が唐突で笑える逸品。
 正直、上記を除く残りの4編はそれほどとも思えなかったが、いずれも水準を楽々クリアしているのはさすが。スタージョン好きにはお薦めの短編集である。