不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ルパンの消息/横山秀夫

ルパンの消息 (カッパノベルス)

ルパンの消息 (カッパノベルス)

 人気作家・横山秀夫の事実上の処女作、ということになるのだろうか。試験問題の盗難と自殺(殺人?)事件、そしてあの三億円事件が絡んでくる。時効成立寸前というのが、緊迫感があって良い。内容も十五年の時を駆け、複数の登場人物(刑事たちも含む)のそれぞれの人生が盛り込まれ、お腹一杯。
 とはいえ、作りは荒い。ご都合主義的な部分も結構ある。時効成立云々の緊迫感は先述のようにあれど、それに伴う捜査の困難さがほとんどないというか、異様にスムーズに真相に肉薄してしまうのはちょっと……。『時の渚』をとある知り合いが「敵のいないドラクエ」と称していたが、『ルパンの消息』も、あそこまでは行かないものの、似た面はある。筆力自体は既に完成していたとおぼしく、ファンにはお薦め。