不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ヴィーナス・プラスX/シオドア・スタージョン

ヴィーナス・プラスX (未来の文学)

ヴィーナス・プラスX (未来の文学)

 ジェンダー小説としては、私の乏しい読書体験の中でのことと断りを入れた上で、最高水準を行くと言ってしまおう。スタージョン一流の情感に彩られたユートピア小説と、アメリカの家庭を幸せ一杯に描いていると見えるパートを交互に読まされてゆくうち、知らず知らずのうちにペースに乗せられ、最後に読者は「おお、なるほど!」と世界観/ジェンダー観を受け容れてしまう……かも知れない。少なくとも、その淀みなき倫理の進行に《こいつ結論のために無理矢理捻じ曲げたな》という不自然さは皆無。確かに好悪は出るかもしれないが、私は大好きだし、公平に評価すれば、本当に素晴らしい作家と言わざるを得ないだろう。列聖決定。ファンは必読。