不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

昆虫探偵/鳥飼否宇

昆虫探偵 (光文社文庫)

昆虫探偵 (光文社文庫)

 人間の男が目を覚ますと、ゴキブリになっている。悲しむかと思いきや結構喜んでおり、しかも何の説明もなく普通に昆虫界の探偵事務所に勤務しているのが笑える。さらに、虫たちを思いっ切り擬人化しているくせに、ヌケヌケと本能をネタとして使ってくるのだ。よく考えるとこれってアンフェアかも知れないが、不思議なことに結構様になっているため、あまり気にならない。終始快適に、楽しく読み進むことができる。
 ところが、最後まで笑劇なのかというと、さにあらず。詳しくは言えないが、物語は唐突に緊迫の度合いを増してくるのだ。そしてこれがまたいい感じ。以前から奇天烈なものを書いていたんだなあと感心しきり。ファンにはお薦め、そして『痙攣的』ほどラディカルでもないから、この作家に興味のある人もまず読んでみたらいいんじゃないでしょうか。基本的に守備範囲広そうな作家なので、この一作で判断されるのもどうかと思いますが。
 まあ一作で判断するのが拙速であるのは、全ての作家に言えることですけどね。