不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死が二人をわかつまで/ジョン・ディクスン・カー

死が二人をわかつまで (ハヤカワミステリ文庫)

死が二人をわかつまで (ハヤカワミステリ文庫)

 久々にカーを読む。前半の、婚約者に対する愛の確信と殺人の疑惑の相克、後半の物語のテンポアップ等、小説全体の設計がすこぶるうまく行っている。トリックや真相もなかなかの出来であり、カーの実力というか、好調時のカーが見れるので楽しい。
 というわけで、ゴミだったらどうしようという不安は杞憂に終わり、終始「カーを読んでいる」という幸せな気分に浸れた。訳が仁賀克雄というのは不安要素でしかないわけだが、結果的にこれも杞憂に終わって、本作については特に問題なし。問題あるとすれば解説かな? 若竹七海は小説を読むとき、どうやら「女性」に力点を置いているっぽいけれど、いかがなものか。カーの小説においてケツを蹴り飛ばしてやりたくなるのは、明らかに女性だけではなく、男性を含めた登場人物全員と思うんですが……。性別が同じ登場人物に注目する読み方*1は、基本的に信用できないんだよなあ……。いや読みが深い人であることは知ってるけど。
 以上。

*1:もちろん、解説をよく読めば、男の登場人物もダメダメというのは若竹七海もちゃんと書いてます。流石です。しかし、男への言及はわずか数行であり、主砲が専ら女性の描き方にしか向いていないのは明白なのです。