不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

三百年の謎匣/芦辺拓

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 『紅楼夢の殺人』は、事実上の短編(小ネタ揃い)をずらずら並べ、最後に《世界観》レベルで落とし前を大きく付ける感じの小説であった。『三百年の謎匣』も似たような構造を持つ作品であり、小ネタ嫌い(ネタ中心主義者)は顔をしかめ、理念好き(テーマ中心主義者)は好感を持つと思う。
 ただし、『紅楼夢の殺人』と異なり、物語としての色調は統一的なものではない。タイトルどおり、各編の時代は三百年をまたがるし、場所もバラバラ、登場人物も多士済々である。このバラエティーに富んだ配置に対してどう思うのかがまずはポイント。福井健太も言及しているが、《謎解きをラストだけに集める》ことによる、各編のその時々における締まりのなさも、個人的には気になった。『紅楼夢の殺人』ではあまり気にならなかったんだけどなあ……。
 芦辺拓の筆自体は乗っているため、私としては読んでいて普通に楽しめたし、最後に立ち現れる主要主題も、これはこれで話を綺麗にまとめている。前段落の私見によるマイナス点にもかかわらず、本心から名手の佳作と思うし、本格好きにはお薦めできるかもしれない。