不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

傀儡后/牧野修

傀儡后 (ハヤカワJA)

傀儡后 (ハヤカワJA)

 Jコレクション時の装丁があれで、文庫はこんなのである。全然違う話のように見えるが、よく考えるといずれの装丁も「こういう話ではある」わけで、侮れない。
 ガチガチのハードSFというわけではなく、何らかの恐怖感と幻惑感をベースとした物語(ホラー臭が強いと言ってしまっていいのだろうか?)が展開されている。SFらしく解答は一応用意され事態は《落着》するが、作者の興味の焦点はそこにはなく、SF的な設定でいかに異様な美に満ち溢れた情景を描くかが主要主題となる。ここが魅力であることはもちろんだが、個人的好みから言うと、反面話のまとまりを緩めているとも感じた。小説とは、そして個人の好みとは、真に難しいものなり。
 私の中では、牧野修の作品であれば『屍の王』が既読の範囲では最高傑作だと思われ、それはこの『傀儡后』を読了した後も変わらない。しかしこれはこれで良い作品だと思われる。それなりにお薦めかな。