不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

妻に失恋した男/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人 (光文社文庫)

 トリックが良いわけでも、推理の冴えがあるわけでも、物語としてダイナミックなわけでも、情感が印象深いわけでもない。話が短過ぎて何もできなかったのではないか。感想を抱く術を教えてもらいたい。ただ、最初の「妻に失恋した」と延々と泣き言が連ねられている部分は、乱歩らしいとは思った。それだけですけど。

 連作の一部をなす「秘中の秘」は、美女に懸想する青年の熱気を感じ取ることができる。「魔王城殺人事件」では、少年探偵団でもあるまいに珍しく、子供視点の部分がある。文章そのものは大人向けなので、私のように、若年の頃をもう思い出せないし思い出しても仕方のない老人には、かえって読みやすかったりする。