不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

れんげ野原のまんなかで/森谷明子

 野原の真ん中にある市立図書館(分館)を舞台とする、心温まる連作短編集。
 本格ミステリとしては、変な真相も、変な論理も、変な伏線も特に見当たらず、日常系のノリのまま終始淡々と進む。長所も短所もない感じで、それほど高くは評価できない。ただし小説としてだと話は違ってくる。文章に味があって、これがなかなか捨て難い。正直この文章には余分なものが多いが、その分情感は出ており、物語にうまく肉付けしている。思うに、《心温まる》系の話は、案外味付けが薄いことが多く、ストーリー面での道草も少ないので《核心》以外の事柄に触れることができないうらみがあり、結果として読後感が腹八分目未満ということがままある。『れんげ野原のまんなかで』はそこら辺を過不足なく満たしてくれる……と私には感じられた。
 まあ単に整理整頓度が弱いだけかもしれず、洗練された文章が好きな人にはキツイ小説かもしれませんね。デビュー作が源氏物語ネタだったことに何となく納得。そんな感じ。