不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

魔法/クリストファー・プリースト

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

 記憶喪失ネタの穏やかな恋愛譚……と思っていたら!
 まあ、プリーストが書いた作品が「穏やかな恋愛譚」で済むはずがないのは先刻承知なんだがそこはそれ。ストーリーが激動した後も、ネタに頼り切らず、相変わらず情感主導で押して来るのが首尾一貫していて好ましい。とはいえラストに至る内的伏線*1もしっかりと張られており、完成度も高い。無駄だと感じてしまう箇所もなかったし、ネタ自体の力も強いため『奇術師』よりも高く評価したい。ていうか傑作。小説が好きな方には広く読んでもらい、ネタバレにて色々語り合いたい気分。

*1:姑獲鳥の夏』で、京極は真相を十全に機能させるためあんなこと長々とやったじゃないですか。個人的には、アレと似たようなことをしていると思う。