不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ハーゲン・クァルテット

  1. ベートーヴェン弦楽四重奏曲第12番変ホ長調Op.127
  2. ベートーヴェン弦楽四重奏曲第16番ヘ長調Op.135
  3. ベートーヴェン弦楽四重奏曲第13番変ロ長調Op.130(第1楽章〜第5楽章)
  4. ベートーヴェン:大フーガOp.133
  • ルーカス・ハーゲン(1st.ヴァイオリン)
  • ライナー・シュミット(2nd.ヴァイオリン)
  • アイリス・ハーゲン(ヴィオラ
  • クレメンス・ハーゲン(チェロ)

 ヴィオラヴェロニカ・ハーゲンが来月出産のため、代役としてアイリス・ハーゲンが加わった演奏会。代役まで家内調達(ルーカスの嫁)なんで笑った。そのアイリス、全パートが伯仲しながら進むハーゲン・クァルテットの流儀では、陥没点になっていた観が若干あり、少々残念であった。とは言えヴェロニカの実演は未体験であるため、常態のこの団体と比較してどうだったかなど知らんので、判断できない。それに、先日のリダ・チェンの「コイツ素人……」というレヴェルではなく、あくまで高水準を維持しての話であり、瑕疵とまでは言えない。

 ベートーヴェン弦楽四重奏曲は、この作曲家に関する限り、《核》《本質》といった部分を構成する。交響曲がアジるベートーヴェンだとすれば、弦楽四重奏曲は静かに自らを語るベートーヴェンだ。私は、居間で彼自身と対話しているような、そんな錯覚さえ覚える。特に後期はその趣が強い。そしてその内容に、聴くたびに圧倒されヘトヘトになるのである。今日もそうであった。

 ハーゲン・クァルテットの演奏は、切れ味鋭い演奏で、テンポも全体に早め、時にもう少しマターリやってもいいんじゃないかと思わせつつ一気呵成に進むもの。旋律ではなく、リズムや一つ一つの音の粒立ちで勝負する感じで、変な装飾は一切なく、曲を素のまま出して来た。そして大フーガで大爆発。この曲、実演だと凄まじさ数倍増しですね。余りのことに笑いさえこみ上げてきた。満足満足。