雨恋/松尾由美
- 作者: 松尾由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/01/26
- メディア: 単行本
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大森望が言うように、確かにラスト数ページが話の要で、読後感はこれに占領される。
とはいえ、ミステリ的なネタは小粒であり、他の要素も印象が薄い。だからラストが目立つ事情があるのも事実である。話のスケールが小さく、主要な舞台は主人公の家の居間。たまに外に行くのも、人に話を聞きに行くだけであって、重要な展開は全て居間で為される。要するに話があまり動かないのである。
もちろん、スリーピング・マーダーなので仕方ない面もあるし、その分話が綺麗にまとまっているので、一概には批判できない。《主人公と真犯人の相対》を直接に描写せず、居間の会話で伝聞として処理することから考えて、松尾由美は話を柔らかくするため全力を注いでおり、前段の私の指摘事項も全て故意に因ろう。キャラの味付けが薄いのも、同じ趣旨である。そもそもラスト数ページも、挿入しない等、ソフトな情感で勝負してくる。
要するに、『雨恋』は丹念に作り込まれた小品であり、これで必要十分なのだ。読みやすいし誰にでも薦められるし、佳品と言い切って構わないと思う。
……とは言ってみたものの、やっぱ下から徐々に見えるようになる幽霊ってちょっと異様だよなあ。最初足だけとかだし。首なし状態の幽霊に欲情する主人公ってどうよ。