不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル

  1. J.S.バッハマタイ受難曲BWV.244

 合唱◎、器楽○、エヴァンゲリスト△、ソプラノ○、カウンターテノール○、テノール×、バリトン○、イエス◎。そんな感じです。
 正直エヴァンゲリストが△の出来ってのは厳しい。声そのものは良かったし、まともに歌えさえすればなかなかいい感じだったが、出の一瞬、音程または声を合わせそびれる場面が続出。しかも、ペテロが「イエスなんて知らん」と言うシーン、群集が天変地異に畏れてイエスを神の子と認めるシーンで、高音を出し損じた。特に後者のシーンは本曲の核心であり、大減点せざるを得ない。
 谷村由美子は、発音がベタ。声やリズム感等はいいので残念。カウンターテノールは可もなく不可もなし、セレンスは俺の耳にはちゃんと歌えてないように思え、ピーター・ハーヴェイはそこそこ、フィンクのイエスはカッコ良かった。ただ皆様、後半は疲れていたのではないかと(出番の少ないソプラノとテノール除く)。というわけで、独唱者全般には不満を感じた。
 しかし合唱は流石コルボ、きっちりまとめていて素晴らしかったと思う。受難の物語の登場人物としての群集と、受難に対し後世のキリスト教徒がどのような感慨を抱いたかを、変幻自在に描き分けていた。以前聴いた岡山のアマチュア合唱団とは格が違います(岡山県の団体も悪くはなかった)。で、本日の演奏会の責任者たるコルボの指揮は、存外にテンポが速く、《マタイ受難曲》を物語としてドラマティックに描いた印象。合唱の変り身が早いのはその表れではなかったか。対訳ないと付いて行けないのだが、歌詞の意味に拘った演奏でもあり、ゆえにメロディーを歌い込むことが疎かになった(特にアリアを歌うソリストたち)面もあったが、方向性がはっきりしていているため、不快感はなかった。
 とは言え、満足できなかったことは告白しておこう。一般参賀*1が起きたので、俺の感性がおかしいだけではあろうが。

*1:コンサート終演後、オケは舞台を去っているのに、観客が拍手を続け、指揮者だけを舞台に呼び出すことを俗にこう言う