不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アジアの岸辺/トマス・M・ディッシュ

アジアの岸辺 (未来の文学)

アジアの岸辺 (未来の文学)

 《最高に知的で、最高に意地悪な作家》というのが惹句だ。最高かどうかはともかく、知的で意地悪なのは確かだった。アイデアとその膨らませ方とかは、非常に構築的だし、登場人物をこっぴどく苛める話が目立つのは大変興味深い。
 しかし正直乗り切れなかった。話のテーマや情感、情念、或いは混沌やらリドルストーリーまでもが全て計算、というのがわかりやす過ぎる。理が勝ち過ぎじゃないでしょうか。意地悪なのに読者に対して何も仕掛けて来ないこともあって、《作者が面白いと思っている他人への意地悪》に延々と付き合わされているような感じ。期待外れだったなあ。
 なお、収録作の中では「アジアの岸辺」が断然良かった。イスタンブールの情景が本当に素晴らしく、これは傑作に認定。他には「国旗掲揚」が、時節柄、旬な話題なので印象に残った。