不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

BG、あるいは死せるカイニス/石持浅海

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

 SF独自の《世界の作り込み》は浅い。性転換するのが人間だけ、そしてなぜ人間だけなのか何の説明もなし、という段階で、純粋にSF的な観点からは非難されて然るべきだ。また、性転換する条件がはっきりしない、BGが何かの明示なし等、SFミステリとしては《前提条件》が曖昧過ぎ、帰納的な読解は不可能。これまたその筋からは文句を言われるべきだろう。また、SFは独自の世界を構築するのだから、そこでの人間の感情・倫理・精神等の《内的要素》も、独自にして現実(=我々が実際に生きている世界)にはあり得ない様相を呈すのが理想、という私の信念からすれば、現実追認のこのラストも最悪に近い。頭悪く一言で評すと、ヴィジョンに欠ける。
 ただし、最初にこの真相ありき、という視界から見ると、この話は非常に綺麗にまとまっている。正直捨て難い。演繹的というのとはちょっと違うので、ミステリとして良作とは言いがたいが、優しく読めばなかなかイケル。文章もいつものように読みやすいし(こんな女子高生いねーよ、という突っ込みも今回は論理的には通用しないだろう。作品が論理的じゃないのでこの反論は矛盾してますが)、石持ファンにはお薦めである。