不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団

  1. ラヴェル組曲マ・メール・ロワ
  2. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番
  3. ストラヴィンスキーバレエ音楽ペトルーシュカ》(1911年版)

ピアノ独奏:ピエール・ロラン・エマール、指揮:シャルル・デュトワ

 素晴らしかった……。スポンサーに感謝。私は某交差点に向かって三跪九叩頭しますよ。
 ラヴェルは普通にとても美しい演奏。ベルリン・フィルが見せた《妖精の園》における輝きには当然及ばないが、絶対的には楽しめる演奏だったと思う。そしてベートーヴェン! オケがいきなり溌剌とし始める。あまりに音が変わったので驚いた。ラヴェルが「普通にとても美しい」大人しめの演奏だったのは、さては確信犯であったか。伴奏は明らかにシュトゥットガルト放送響より上。ピアノ独奏のエマールに至っては、児玉桃など問題にならぬ。第一楽章は途中まで小手調べという感じだったが(それでも十分楽しめた)、カデンツァでやる気全開。凄くうまい上に、リズムもニュアンスも完璧。これに比べると上原彩子がゴミでしかないのは明白なのだった。断言しよう。あの女にこのリズムは死んでも出せない。第二楽章→フィナーレもテンションは持続し、いやあ本当にいいピアニストである。
 しかしメイン・ディッシュは《ペトルーシュカ》であった。最初の木管群の咆哮(はぁ?と思われるかも知れんが、いやいや本当に咆哮としか言いようがない!)で、開始1秒で飛んでしまいました。それからはもう目くるめく目くるめく。お祭りと魂を吹き込まれた人形の悲喜劇を描く、面白い曲である《ペトルーシュカ》が、かくもひたすらカッコ良く奏楽されようとは思ってもみなかった。そしてラストはしっかりと仄暗く決めてくれ、会場もしばらく静寂に包まれたのである。もう言うことありません。本日の演奏会をもって、私の中でデュトワは名指揮者入りしたのです。
 と絶賛しつつも、NHK交響楽団はやはりノリ悪いなあと思った次第。同じデュトワの指揮でも、先月のUBSヴァルビエ・フェスティバル・オーケストラに比べ、なんと腰の重いことか。自ら乗り気になっているわけではない。指揮者にコントロールされて仕方なく、という感じ。まあ彼らもこれが仕事なわけだし、私がリーマンである以上、その気持ちはわかり倒す。演奏そのものが良かったことでもちろん許すのだが、間違いなく《この上》が世界には存在することを伝えて止まない演奏だったとも言えそうだ。逆に言うと、恐らくこれがこのオケの限界なのではないだろうか。少なくともこの手の曲においては。