不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

海のオベリスト/C・デイリー・キング

海のオベリスト (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

海のオベリスト (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

 オベリスト三部作は、これで訳出が完了したようだ。もっとも『鉄路のオベリスト』は絶版。もちろん未読であり、古本屋を回るのも億劫なので誰か復刊してくれませんか。古本屋回る時間と金があれば、今の私はそれを音楽につぎ込みたい。私に残されたものは、他には何もないゆえに。
 『海のオベリスト』だが、手掛かり索引がいい味を出している。『空のオベリスト』ほど目覚しくないが、伏線の妙を後追いで味わうことが出来るのは、私のような怠惰な読者には楽でいい。いい味といえば、この話が航海中の出来事であるのもプラスに作用している。巨大ではあるが舞台は限定され、場の空気が一貫して緊張感が保たれ、同時に上流階級臭やラブロマンスが挟まれるのもいい感じである。総じて傑作ではないが、駄々をこねない限り、黄金期本格の面白さは味わえる逸品である。
 先週オフで会った知り合いに「最高の本格と最高のSFでは、後者の方がオーラを放っている」などと暴論を吐いてしまったのだが、『海のオベリスト』辺りを読んでいると、「古典における、いかにもビンテージというあの味わいは、SFよりも本格の方が良く出ている」などとも思う。やはりどちらのジャンルも素晴らしいということだろう。もちろんその前提として、小説というものの素晴らしさはあるけれど。