不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

願い星、叶い星/アルフレッド・ベスター

 収録作品は全て、すごい勢いで猥雑。混沌としているわけではないのがポイント。地の文は意味不明な熱気に溢れ、登場人物の情念がそこかしこで渦巻き、そればかりか噴火さえしている。表題作や「時と三番街と」などは、普通の作家だったらワンアイデアものとして軽く流すだろう。しかしベスターは、狂気にまで昂ぶった熱気を、作品に、全力で詰め込むのである。「ごきげん目盛り」のような、基礎からして狂気の物語にいたっては、恐らく歴史に残るハイテンションぶりだ。読者の精神に負荷をかけるとんでもない作家、それがベスターなのだと思う。
 告白しておかねばならない。私はアルフレッド・ベスターが好きではない。新刊を読むぞ、歴史的に高評価なものを読むぞ、という愚劣な動機が先立たねば、自主的に手を出すことはないだろう。しかし彼が唯一無二の作家であることは間違いなく、読むたびに圧倒されることも強調しておきたい。《麻薬》という帯はダテではない。