太陽と戦慄/鳥飼否宇
- 作者: 鳥飼否宇
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/10
- メディア: 単行本
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とはいえ、不満というか欲求不満を感じてしまった。本格としての出来がさほどでもないというのが一つ。今ひとつは、少年たちの描写がどうにも余所余所しいところだ。
前者については、犯人側の企み及び犯罪の進展がご都合主義であると共に、真相がわかっても《世界》の反転が弱い点であろう。あの手のトリック使われても、この筋立てだとああいうことにしか使えないじゃん。勿体ないし、惜しげもなく贅を尽くしたなんて言い訳もこれでは効きません。だってこれだけだもんなネタって。意味不明ですまん。
後者についてはより重大な問題かと思う。ていうか作家的特質に直結しているっぽいので、扱いに困る。鳥飼否宇はこれまで、ユーモラスな味わいの物語を書きまくってきた。それらで一番良かった点は、キャラ自体が実にすっとぼけており、それを描く作者の筆は淡々としていた点だ。自爆覚悟で踏み込めば、否宇の筆はシンパシーを誘導するほどの内面直接描写を挟まず、外から見たキャラの奇態な言動に焦点を当て、それがいかに珍奇な味を醸すかは、その言動自体で語らせていた。で、作者はこれと同じ手法を、『太陽と戦慄』のような、深刻な味付けが必要と思われる作品にも使用してしまった。結果として立ち現れるのは、登場人物の狂った言動に過ぎない。その奥にあるはずの、青年の苦しみや悲しみ、刹那的な快楽や破滅的な思想は、我々読者が妄想を働かせない限り、作品内に存在しない。一人称の部分であってもだ。
作者が描きたかったことが何なのか私には判断できないため、上記の見解は、明後日の方向に投石している可能性も高い。よって、出来不出来の判定も避けたいが、正直なところ個人的には食い足りなかった。深刻ぶったあざとい重さよりはもちろんマシなのだが。