新国立劇場
演目は、リヒャルト・シュトラウス:《エレクトラ》。配役は、エレクトラ:ナディーヌ・セクンデ、クリテムネストラ:カラン・アームストロング、クリソテミス:ナンシー・グスタフソン。管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団、指揮:ウルフ・シルマー
結論から述べれば、全体としては水準以上の出来。作品本来の持ち味がじゅうぶん発揮されたと思う。このオペラ、元がエキサイティングであり、水準をクリアしさえすれば満足できるように作られているのだ。リヒャルト・シュトラウスは、作曲が滅茶苦茶うまいのである。
特に良かったのはオケ。東京フィルは新星日響との合併以後、公演によって出来不出来の差が著しくなっているが、今日は良かった。ウルフ・シルマーの「ご鞭撻」系の指揮のもと、がんがん鳴って、溌剌とした演奏を披露していた。ていうかシルマーいいね! ちょっとフラグ立てとこう。
歌手の方は、ロートルな方々が多かったけれど、まあそれなりに頑張っておられますた。ノリノリのオケに乗って、《エレクトラ》がどういうオペラかを耳に叩き込むレベルには達していた。満足満足。興味深かったのは、声の弱かったアームストロングのクリテムネストラ。耳だけで聴けば、さほどの出来ではなかった。しかし、それを彼女は演技でカバーし、《悪夢にうなされる、宝石で着飾った50代の女王》を見事に演じたものである。
演出は、簡素な舞台をベースとした、何も足さず何も引かない堅実なもの。必然的にラストの解釈が食い足りないわけだが、あのシーン(素晴らしいオーケストレーション!)で耳以外に神経を行き届かせるのは無理。よってどうでもいい欠点ではある。一点だけ許せないのは、エレクトラの狂喜の踊りが踊りになっていなかった点。踊らないなら踊らないでいいのに、足踏みだけなんで余りにも中途半端。
総合すると、満足した公演であった。というわけで、東京のオペラの森を見送って金を節約しても、特に後悔しなくて済みそうである。