不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

レイチェル・ポッジャー(ヴァイオリン)

 曲目は、J・S・バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第4番、テレマン:幻想曲第1番、同:幻想曲第3番、J・S・バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第5番、同:パルティータ第2番(鍵盤楽曲、念のため)、同:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第6番。チェンバロゲイリー・クーパー

 クレーメルヴェンゲーロフを直近で聴いている耳からすると、やはりバロック・ヴァイオリンは軽い。また曲目的にも、超絶技巧で挑むような趣は薄い。それに、クレーメルヴェンゲーロフと比べミスもあった(それでも充分綺麗ですけど)。しかし私は非常に楽しんだ。今日はエキサイトしなかったが、代わりに「いい音楽を聴いたなあ」という、マターリした満足感がある。どれ位マターリしたかは、隣席のカポーが演奏中ずーっといちゃ付いても、嫉妬や怨嗟の念が全く浮かばなかったところから見て明らかだろう。妬み嫉み僻み根性が染み付いている私がこうなっているのは、まさに特筆大書すべき異常事態なのだ。ヒーリングや癒しと呼ぶのは断固拒否するが、音楽によるリラックスも大変素晴らしいものなのだ。
 興味深かったのは、今日の演奏だとバッハよりもテレマンの方が素晴らしく聴こえたことだ。元来、バッハはかなり枠に嵌った音楽で、《構成で聴かせる》所があるのだが、テレマンにはもっと自由闊達な雰囲気がある。根を詰めず軽やか・楽しげに弾くポッジャーのスタイルは、バッハよりテレマンに向いていると思われる。ポッジャーは再来年、また来日するようだ。その際には、2006年に生誕250年を迎える、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを持ってくるはずだ。彼女の芸風には合っていると思うので、今から楽しみである。