不壊の槍は折られましたが、何か?

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天空の魔人/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫)

 少年探偵団ものの中編。田舎の温泉地に遊びに行った小林少年一行が出くわす、奇怪な列車盗難事件。
 よく考えてみると、この作品は生涯最も読み返した小説である。この作品はポプラ社の『少年探偵団』に表題作と共にカップリングされていた。で、ここが重要なのだが、幼少の私にはトリックがよくわからなかったのだ。当時小学校1年か2年。なんとお袋の薦めに従って手に取ったと記憶する。お袋はこのことをきっと後悔しているであろう。それとも、自分に都合の悪いことは忘れているのだろうか? いずれにせよ怖くて訊けないが、それはともかく、理解が覚束ないからこそ、私は「天空の魔人」を精読した。あれほどの回数を丹精込めて読み解くことは、もはや二度とあるまい。この間の『ケルベロス第五の首』さえこの時ほど根を詰めて読んでいない。まったくもって思い出そのもの、苛めによって陰射していたとはいえ、総合的にはわが人生の最も輝かしい一時期の、その光源の一つなのである。
 そして、当然のことながらこの話はかなり細かいところまで記憶に残っている。もちろん、冷静には、まるで初めて読むかのように余所余所しくは、読めるわけがないのである。よって贔屓目を排除するのは困難だが、乱歩としてはいい線行ってるトリックではないか。いや実現不可能ですが。正確に言うと、無理ではないがかなりの練習を伴うはずで、じゃあその練習は何処でやったんだという問題は、触れさえしてくれない。これは欠点だと思う。そして、金をやって偽証させる、なんてネタがあるのも面白くない。禁じ手ではないが、『宇宙怪人』同様ガッカリ来る。
 幼年期の私にお薦め。