不壊の槍は折られましたが、何か?

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パノラマ島綺譚/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚 (光文社文庫)

 衆知の代表作で、何度読んでも、荒唐無稽大炸裂、ここまでやられるともう何も言えないわけで、いいや楽しんじゃえという気になるから変なものだ。細かいことは言わず、乱歩が最大限に繰り出す幻戯に酔いましょう。ただ、千葉県の鼠の帝国という実例もあるので、パノラマ島に実際に行ったとしても、爆笑せずに普通に楽しめるかもしれない。人魚や白鳥に化けて泳いでいたりするのも、ガチャピンを考えればものの数ではないし。突っ込むとすれば、白鳥に直接乗ってしまうところか。沈むだろ。
 なお、明智小五郎が出て来ず、代わりに北見小五郎などという、微妙な名前の探偵が登場して主人公を指弾するのも興味深い。実は乱歩、明智を好んでいなかったのではないか? 本気で書いたと思しい作品には、初期短編を除いて出て来ないものね。しかし、「パノラマ島綺譚」や「目羅博士の不思議な犯罪」には、明智に似た人物が登場する。乱歩の明智に対する思いは、色々と複雑だったのやも知れぬ。横溝やクリスティーも嵌ったが、ドイルやルブランが特に陥った苦悩(主人公が作者を越える)を、乱歩は早くもこの頃から感じ取っていたのか?

 というわけで、傑作である。乱歩の名を知るなら、必読。

 蛇足だが、乱歩が今生きていれば、屋敷は池袋ではなく浦安に構えたかもしれないと思う今日この頃である。夢の国に日参りする禿げ親父というのもぞっとしないが。