不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

好き好き大好き超愛してる/舞城王太郎

好き好き大好き超愛してる。

好き好き大好き超愛してる。

 タイトルどおり、愛を扱った表題作が面白い。愛する人々を描くというよりも、恋人に病で先立たれた主人公が、延々と考察を繰り広げる趣が強い。しかし彼は決して冷静ではない。愛溢れ情熱に狂い、心千々に乱れ、現状を全力で(時に痛々しいまでに)肯定する勢いは、好悪は別として読者を圧倒する。その底にあるのは、恋愛に対する揺ぎ無き信頼であり、主人公が小説を書くことでその想いを昇華している点に、舞城自身の小説に対する揺ぎ無き信頼も見て取れる。
 いかに悲惨な出来事が起きようとも、《世界》への信頼を誰もが失わない世界。舞城王太郎の小説は、内攻的だがとても強い人々の物語である。羨望するのは間違いだろうが、私もこれほど何かを信じられればと思わないでもない。
 カップリングの「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」も本質的には変わらない。「好き好き大好き超愛してる」を気に入った読者ならば、じゅうぶん楽しめることだろう。

 というわけで、今作も舞城は持ち味を生かしている。装丁は非常に下品だが、これもまた良し。お薦め。