不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

黄金蝶ひとり/太田忠司

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

 ミステリーランドの一冊。強力推薦されたので読んでみた。

 小学生の主人公が体験する、ひと夏の冒険。話の内容は至ってシンプルだが、ネタやガジェットが(ミステリのそれに限らず)惜しげもなく注ぎ込まれており、読了後の満腹感は意外にある。また、後味も非常に良い。小さな驚愕付きであるのもポイントを抑えている。
 つまり、《若年層をターゲットとする》という、当叢書のお題目にはぴったりなのだ。
 と同時に、老いさらばえた人々の感傷も適度に刺激してくれる。冒頭の暗号文もそう(あんなもん、数年後にも覚えている小学生がいますかってんだ)だし、一冊丸ごとメタ仕掛けになっているのも、ガキの方を向いた発想ではない。ここら辺は《大きなお友達に昔を懐かしませる》という当叢書裏のテーゼに対応している。実にうまいものだ。

 というわけで、老若男女問わず、お薦め。