不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

レ・コスミコミケ/I・カルヴィーノ

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)

 ハードSF、叙情系SF、ファンタジー、法螺話、寓話、エンタメ、純文学。『レ・コスミコミケ』はこれらの全てであると同時に、いずれでもない。このことが本書最大の魅力である。科学論理に裏付けられているようで、読者の心に残るのは、時に哀愁漂い、時に愉悦弾む、紛れもなき《情感》なのである。中には最初から寓話臭・ファンタジー臭しかないものもあるけれど、これはこれで素晴らしい。ジャンルの《枠》は、いったん取り払われた上で、エッセンスが絶妙に抽出・混交されている。このセンスは本当に素晴らしいと思う。
 語り口も面白い。宇宙の始まりから既に生きていたQfwfq爺さんは、間違いなく、我々読者が得ることの出来る最上の語り手の一人だ。エマノンさえ小娘でしかない時間尺度、それに見合わぬ親しみ易い快活(しかし決め場ではしっかり憂愁)な口調。私は完全に魅入られてしまった。

 今年最高の読書時間の一つ。必読。