不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ファイナル・カントリー/J・クラムリー

 クラムリーの新刊である。もちろん迷わず購読。

 酒とクスリ、そして荒淫。ミロは作中で六十の声を聞くが、にも関わらず彼は私立探偵業に没頭する。バイオレンスにしてハードボイルドな活動と生活に勤しむ彼は、女からは呆れられ、自身も時に危機や倦怠に陥る。その度に彼はセックスやコカインで気付けする。そしてその反動で、彼の生活はますます荒むのである。
 だがミロは、どこか老成している。一人称の節々に滲む、ニヒリズムとは一味違う厭世観や諦念・哀愁は、まさに年齢相応といったイメージが強い。ミステリの世界に単なる《ハードボイルドな漢》は数あれど、初老から老境へ至る《夕映え》をかくも見事に体現した漢は、他にいない。脇キャラも素晴らしいことを付言しておこう。さすがはジェイムズ・クラムリー、最高である。

 ミステリとしての出来もなかなか良い。企みの構図は見事だし、意外な真相も着実に決めてくれる。

 というわけで、万事抜かりない傑作である。ハードボイルド・ファンは必読!