狗/小川勝己
- 作者: 小川勝己
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/07/22
- メディア: 単行本
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「蝋燭遊戯」
ここでのファム・ファタルは単に無自覚・傍迷惑なだけかもしれない。ただし致命的なので、読者はともかく主人公はたまったものではない。コメディタッチの、それでいて悲惨な物語である。
「老人と膿」
この作品だけ、痛快さを持っている。とはいえこの痛快さも歪んでいるのは小川勝己らしい。ファム・ファタルたる主人公は、因果応報正義の実現を掲げて行動をとるのだが、恐らく実態は自分が意趣返しをしたかっただけだろう。論より証拠、アフターケアは皆無なのである。
「You裡」
お客に対しストーキングに近い執着を見せる、バーの若い女。彼女は間違いなく狂気に駆られているが、その狂気が男性主人公に染み込んでゆく様が見所か。男の家庭が実は崩壊しているのも、高ポイントである。
「代償」
お前は気色悪いと言われて同僚に振られた、うだつの上がらない男性教師。彼が、その代償として生徒の母(かなりのヤリ手)と浮気を繰り広げる。あくまで代償な以上、ファム・ファタルじゃない気もするが、結局運命は主人公を破滅に追いやる。浮気が人生の破滅に至るなんて話は、ミステリでは非常にありがち。小川勝己の筆も、その〈ありがち〉の範囲を出ていない。これはこれで高品質だが、やはりこの作家には〈ならでは〉を求めたい。
「夢の報酬」
収録短編中ではもっともミステリらしいミステリ。バンドという夢を追う仲間たちの活写が印象的で、これにより話し全体が活き活きと躍動し始める。ミステリ上の趣向は、特に目覚しいものでもないが、真相が明らかになった瞬間の恐ろしさは、『狗』中でも随一やも知れぬ。
小川勝己ファンは読んで損なし。