不壊の槍は折られましたが、何か?

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算盤が恋を語る時/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

 これまた内気な男の恋の話。
 今作はユーモラスにして軽妙な色調で彩られており、切なさや哀しさは薄い。よって誰にでも楽しめよう。しかしその分面白みも希釈されており、私の場合、経理に算盤を使用する古代性を興味深く感じる程度だった。ただし、乱歩は深刻な話を書かなかった、いや書けなかった人だと解釈した場合、案外このような作品にこそ素顔の乱歩が佇むのかもしれない。決して疎かにしてはならない短編である。このように擁護せねばならない時点で、問題ではあるのだが。