不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京室内歌劇場

  1. リヒャルト・シュトラウスの《インテルメッツォ》(日本初演

小森輝彦、田島茂代、経種廉彦ほかのキャスティング。
演出は鈴木敬介、管弦楽が東京交響楽団、指揮は若杉弘

 17日と19日にも公演があって、そちらの方が明らかにキャストが良かったが、それでは友人と飲めなかったり移動が慌しくなったりで断念。
 このオペラ、重唱の瞬間が皆無なところに象徴されるが、基本的に科白が最も重視された演目である。オケの鳴るタイミングも調整されており、言葉が明瞭に聞き取れるよう注意を払われている。《薔薇の騎士》辺りからシュトラウスも気にし始めた、「言葉か、音楽か」という近代オペラの孕む根本的命題に対して、言葉の方に大きく傾斜した姿を見せる一作だ。物語の内容も単なる夫婦喧嘩であり、最後の和解でさえ大袈裟には盛り上がらず、音楽もそれに添った形で付与されるため、代表的なオペラに与えられるような感動を期待するわけには行かない。それもそのはず、このストーリーは作曲者自身が実際に経験した夫婦喧嘩に基づいているのだ。要するにこの作品は、私小説ならぬ私歌劇なのである。

 第一幕では皆様どうも声が硬い。特に、奥様役の田島はヒステリックに喚くだけ、メイド役の宮部小牧に至っては声がかすれている上に小さくて聞こえません。他も全般的に不調、特にディクションが不明瞭です。最上のディクションって、たとえその言語がわからなくても何となくわかるものです。しかも日本語的発声も所々見受けられました。このオペラでそれはないんじゃないかと。
 第二幕は声・演技とも皆様こなれてきて楽しめたとはいえ、やはり他の日に行って、多田羅氏と釜洞女史の演唱を楽しむべきであったか。

 オケは鳴りも適切で、音楽全体の見通しも良くて満足。若杉弘、実演は初めてでしたが予想通り手堅くまとめて来てました。東京に行くたびに会場で見かけるので、次は声をかけてみてもいいかも知れん。

 演出は非常に普通。低予算なりの舞台でそこそこ見れたが、低予算を逆手にとって素晴らしい演劇空間を生み出した、というほどではない。夫婦の子供の使い方だけですな、創意工夫を感じたのは。夫の出発時と、夫婦が和解して抱き合いながら退場するシーンで、誰もいなくなった舞台にちょこちょこ現れて両親の行った先を見ているというもの。ありがちなので「光る」とは言いませんが、印象は良かったです。