不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

スコッチ・ゲーム/西澤保彦

スコッチ・ゲーム (角川文庫)

スコッチ・ゲーム (角川文庫)

 例のシリーズ。微速前進で蝸牛のごとく読み進めております。

 ご存知のように西澤保彦は、人間の持つ、嫌な内面を描くのが非常にうまい。『スコッチ・ゲーム』におけるタカチの深刻な物語は、作者にこの強みがあるからこそしっくり来るのである。
 とはいえ、さすがに最近は、「直系尊属をそこまで嫌わんでも」と思うようになってきた。タカチの父に対する嫌悪感は、その本質において反抗期のガキの戯言を一歩も出ていない。自意識も相当に過剰である。しかし知識だけは広がっているので、たいへんもっともらしいことを延々と語っており、その香ばしさは読む価値がある。要するに私は「そうだそうだ!」とか「なるほど視座が高い」などと思いつつ読んでいるのではなく、登場人物の《深謀遠慮》を斜に構えつつ笑覧し、ネタとして消費している。もちろん登場人物の肉声=西澤保彦自身の意見であるとは思わないが、作者が自覚的に登場人物を弄んでいるかどうかは、作品を読んでいる限りではちょっと判断が付かない。いずれにも取れる感じなのだ。西澤保彦の見解がどうなのかは、現時点では非常に微妙である。これは、自分の尻尾はつかませないということでもあり、作者の巧妙さを示すものだろう。

 ミステリとしては相変わらず、妄想スレスレの推理アクロバットが楽しい。最終的な結論が凡庸でも、次から次へと生まれては否定されてゆく推理という〈手順〉が読ませるのだ。

 うむ、やはりこの作家凄いよ。というわけでお薦め。