不壊の槍は折られましたが、何か?

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あなたの魂に安らぎあれ/神林長平

あなたの魂に安らぎあれ (ハヤカワ文庫JA)

あなたの魂に安らぎあれ (ハヤカワ文庫JA)

 先週は、新刊の発刊がちょっとした凪に入っていた。こういう時はやはり、懸案事項を処理するに限る。というわけで神林長平のデビュー作である。

 『帝王の殻』文庫版の解説者によると、神林長平はハードSFとディック的な幻想的悪夢を融合する作家であるらしい。で、既読の『戦闘妖精雪風』シリーズでは、ここら辺がよくわからなかった。確かに人間性と同等の意味を持つ機械性という変なものが出ては来る。しかしそれも含め、物語は基本的にハードSFの世界に存在する。JAMや雪風というネタの解明にも多大な興味を抱かせる作品であった。

 で、『あなたの魂に安らぎあれ』である。結論から言うと、私はこれを読んで『帝王の殻』の解説者が言わんとしている事が理解できた。
 この物語、少なくとも最初のうちは、JAMや雪風に相当する大ネタがない。太陽線のため日中は地表で活動できない人間たちが、地下都市で倦んだように毎日を送る様が描かれている。地表で大都市を築いているアンドロイドに対して彼らが抱く認識(石原都知事あたりが中国や朝鮮半島の国家・人々をどう思っているか、というのに近い)が、痛いと同時に面白い。そして予想に違わず、アンドロイドもまた、人間に対して敵対感情を抱く。この関係性が本書の鍵である。双方、妙な宗教を持っているのも深読みできるポイントの一つだ。悪夢を見る奴、倦怠期の夫婦、子供らしい子供、坊さん、かわいい少女@アンドロイドなどなど、そっち系のガジェットも色々盛り込まれている。

 ところが終盤、作品はハードSFとしての科学的な顔を見せる。バカSFとしてでは全くなく、通常のSF大作として作品が終結するのだ。これは結構独特な世界だろう。
 なるほどこれはハードSF+ディックである。

 というわけで、疲れているので文章メタクソですが、『あなたの魂に安らぎあれ』を私は楽しんだ。