パズラー/西澤保彦
- 作者: 西澤保彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/06/25
- メディア: 単行本
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で、作品の内容には好印象を抱いた。西澤保彦の諸作では、登場人物が論理をこねくりまわすことが多い。収録短編のほとんどでも、これが炸裂している。まさに論理のアクロバットだ。また、この作家のもう一つの特徴である悪意の噴出は、今回も目立ち倒す。この人、歳を取ると案外土屋隆夫みたくなるのではないだろうか。エロい場面も相当粘着質だし。
「蓮華の花」
作家が同窓会に呼ばれる話。恐らく西澤自身の妄想上の恐怖も入っているのではないか。初っ端から凄く嫌な話で、私は嬉しい(←本気です)。
「卵が割れた後で」
アメリカの日本人留学生殺害を描く。ディベートを基礎とした論理のアクロバットが(いつものことだが)楽しい。西澤を複数作読んだ者として発言すると、人間の本性に対して珍しく肯定的なのが印象に残る。
「時計じかけの小鳥」
主人公が一人で延々と妄想推理をしてゆく一編。あらゆる意味で意地が悪いが、客観的に見れば一人相撲であり、滑稽味がある。よって読後感は妙に爽やかだ。西澤保彦という作家のサンプルとして好適な作品である。
「贋作「退職刑事」」
題名どおり、都筑道夫の著名シリーズの贋作。ミステリ的な作法はもちろん、女性の死体が上半身裸だったり、読点が妙に多かったりと、読者サービス・文章いずれも都筑道夫を徹底的に模倣しようとしており、結論としてはそれに成功している。個人的には即ち嫌いなタイプとなるので残念だ。ミステリとしては上出来なのだが。
「チープ・トリック」
不可能興味もあるがそれ以上に、性犯罪の爛れた雰囲気が終始渦を巻いている。西澤の闇の顔が顕在化した一編と言える。
「アリバイ・ジ・アンビバレンス」
最後は、論理のアクロバットの横溢した一編で爽やかに〆る。とはいえ、事件と真相の内容は暗い。ただし、当事者は直接顔を出さず、読者の眼前にいるのはお気楽高校生なので、重い印象はまったくない。「チープ・トリック」が陰鬱な小説だったので、余計そう感じるのかも知れんが。
というわけで、総合的にもお薦めの一冊。全編粒が揃っているのは素晴らしい。