不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

観光旅行/D・イーリイ

 南米のある国を舞台に、観光旅行と旅行客、旅行社を描く物語。しかし登場人物全員動きが奇態で素晴らしい。種々のテーマが入り乱れたりもし、予期した通り、一筋縄では行かない。『ヨットクラブ』の味わいを更に濃くし、しかも巨大化すればこうなるだろうなという感じ。社会に問いかけるような視点がなければ、ピーター・ディキンスンに近しい作風と言えるだろう。エンタメとして能天気に楽しむのは難しく、作品自体も精読を要求するような妙な熱気がある。強い読み応えのある寓話として、かなりの力作・傑作だと思う。
 ところで、この表紙、ひょっとして古川日出男ファンでも狙っているのだろうか? こういう被り方って、結構珍しいような。そうでもないですかそうですか。