不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ワイオミングの惨劇/トレヴェニアン

ワイオミングの惨劇 (新潮文庫)

ワイオミングの惨劇 (新潮文庫)

 トレヴェニアン久々の新作。
 百年ほど前、もの凄く寂れた町(住民わずか15名)を舞台に、脱獄囚と住民の緊張と闘いを描く作品。
 例によって情感が独特である。挿話でしかないシーンに印象的なものが多く、本筋を食ってしまう。クライマックスも定石を踏まず、あっさり片が付くが楽勝というわけでもない。その後も特徴的で、事件とは何の関係もない出来事により町は捨てられる。また、登場人物の後半生にさらりと触れ、なかなか腰砕けなラストを見せてくれる。しかし人生ってこんなもんじゃないかな、と思わされ、不思議と嫌な気分にはならない。書き漏らしたが登場人物の造形自体もなかなか面白く、読んでいて飽きが来ない。
 私は非常に満足した。