不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

Q&A/恩田陸

Q&A

Q&A

 恩田陸は大学の先輩に薦められて知った作家である。で、当時は好きだった。しかし次第に、何か違うという感じ始め、次第に手に取る頻度が下がり、挙句視界から消してしまった。
 彼女は典型的な前半傑作作家であり、雰囲気を盛り上げるのはうまい。しかしクライマックスが近づくと失速してしまう。テーマがうやむやになることも多い。ネタやオチの仕込みが足りないのだろうか? 或いは元々の作家的属性なのだろうか? 以前の私は、オーバーワークを理由とした前者であろうと解釈していた。しかし最近は、実は後者なんじゃないかと思うようになった。恩田陸を読むに際して素晴らしい結末を期待してはいけないのであろう。物語の発端と、クライマックス前までの推移。これを描かせたら恩田陸は天下一品、越える作家はそうはいない。ある意味コニー・ウィリスの逆を行く人なのではないか。

 そんな恩田陸の新作を本当に久しぶりに手に取った。
 結論。『Q&A』は傑作である。
 もちろんオチ等は練られていない。また、「Q&Aのみで構成された小説」とストイックな構成を宣しつつ、結局は事実上の単なる会話文と化し、ぐだぐだと綻びてしまう。喧伝は出版社が勝手に考え付いたこと、恩田陸に責任はない、という弁明・弁護は今回は通用しない。なぜなら『Q&A』と謳っているのは題名だからである(題名を決めたのは恩田陸ではない、というなら話は別だが、それはそれで別の問題が出て来る)。
 しかし一方、コンセプトが徐々に崩れてゆき、物語もラストでうやむやにぼかされることで、言い知れぬ不気味さと緊張感が醸されている。この感覚は恩田陸一流のものだが、物語の失速でそれが損なわれぬばかりかいや増すのは、少なくとも私には初めての体験であった。

 また恩田陸の読者になろうか。そんなことを思わせる作品であった。次作にも期待したい。