ラー/高野史緒
- 作者: 高野史緒
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/05/25
- メディア: 単行本
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単純に書けばそれだけの話なのに、何なんだこの静けさと寂しさは。
ジェディは調子に乗りつつもどこか醒めており、古代エジプトの神官や王族に分不相応に崇められても、過度に得意になったりはせず、ピラミッドの謎に迫れるならと敢えて厚遇を甘受している。考古学の王道に背を向けて独自の研究を続けてきた、というのも高ポイント。これが、発言や思考の厭世観を裏付ける形になるが、この雰囲気は非常に素晴らしい。
しかし彼以上に肝心なのは、ジェディを誰かと勘違いしている神官メトフェルだろう。ピラミッド建設の監督官でもあるこの神官は、もう一人の視点人物として物語全体に決定的な影響を与えている。ネタも絡むためはっきり書けないが、彼は信仰と事実の間で惑い悩んでいる。そして最終的には、メトフェルの宗教面での思考回路が、物語に感動的とさえ言える昂ぶりと確信をもたらすのである。
高野史緒は初めて読んだが、素晴らしい作家だと思った。他の作品も読んでみたい。