フェッセンデンの宇宙/E・ハミルトン
- 作者: エドモンド・ハミルトン,中村融
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/04/15
- メディア: 単行本
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『フェッセンデンの宇宙』もこの流れに沿う一冊だ。全収録短編が間違いなくSFだが、SFとしての設定は単純極まりなく、少なくとも科学的にはそれほど練られていない。話題のアイデアの斬新さは、個人的な意見だが感じ取れない。古いというよりも、ありきたりだと思う。しかし、そのアイデアとハミルトンの筆が邂逅して、えもいわれぬ情感を生み出している。
表題作「フェッセンデンの宇宙」にそれは特に顕著だ。実験室の宇宙の鮮明さと、フェッセンデンのスタンスの対比。そして思いがこの宇宙に向く時の、主人公の沈鬱と畏怖。見事な小品である。
他の作品も基本ラインは同様だが、悲しかったり惨めだったりする結末を迎えても、どこかに救済や希望があるのは特徴的。この点では「太陽の炎」が凄いと思う。普通、こういう話を書いたら結末はこうはならないって。性格的にプラス思考の人だったのだろうか。と考えると、最高傑作の呼び声高いらしい「向こうはどんなところだい?」の疲弊感と寂寥感は異例である。これはこれで素晴らしい。というか個人的にはこれが一押し。
というわけで、幅広くお薦めできる作品。収録短編のレベルも揃っているし、「エドモンド・ハミルトン? 誰それ?」という人も怖じずに読んで欲しい。ハミルトンを知っている人は放っておいても買うだろうから、そんな方々には《奇想コレクション》の他の作品をお薦めしておきます。どれも方向性はそこまで変わらないので。