不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

みんな誰かを殺したい/射逆裕二

みんな誰かを殺したい

みんな誰かを殺したい

 横溝正史ミステリ大賞の優秀賞・テレビ東京賞を受賞した作品。

 テレビ向け。そんなことを思った。
 選評にあるとおり、『みんな誰かを殺したい』は構成の妙で魅せる。真相はうまく隠されており、トリックも小粋に決まる。プロットが良く練られているとも言う。部の幕切れのたびに、ドキリとさせる科白を出して思わせぶりに引いてゆくのも洒落ていて良い。登場人物の造形もシンプルで変に奇矯な設定を噛まさない。というわけで、この作品は肩に力を入れずとも楽しめる作品なのだ。
 しかし逆に、そこが不満点でもある。プロット・キャラ・トリック・文章いずれの面でも、この物語は非常にわかりやすい(バレバレという意味ではなく)。より濃厚な味付け、或いはより飄々とした挙措を望んでも、そんなものはここにはない。綺麗にまとまった印象が先行し、この作家・作品ならではといったものが感じられない。
 これがいちゃ文であることは自覚している。かくもバランスが良いミステリを書けること自体、射逆裕二が優秀な人材であることの証明に他ならないのだから。次作以降で個性を発揮していただけるものと期待している。