サンセット・ヒート/J・R・ランズデール
- 作者: ジョー・R・ランズデール,北野寿美枝
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/05/25
- メディア: 単行本
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とはいえ、ハップ&レナード・シリーズのような〈自我を確立した強き人々が愛と正義を熱く希求する〉物語ではない。かの冒頭から予見はされるが、この物語は要するに、夫を射殺したのを契機に覚醒したため、自我を再整備する必要に迫られた一人の女の物語である。彼女に向ける作者の視線はどこか醒めており、また登場人物もほとんどがどこか醒めている。そして、醒めながら皆どこかおかしい。何かが狂っている。この不気味さは絶妙であり、物語の渦に有無を言わさず読者を巻き込む原動力となっている。
こうした感触はランズデールにあってさえ『テキサス・ナイトランナーズ』ぐらいでしか出していない。当然だが他のミステリ作家でもほぼ見受けられず、非常に貴重なテイストを醸す。しかもプロットは整然とし、サプライズも用意されているとあっては、読まねば損というものだ。完成度の高さ、登場人物の奇矯さ、格調の高さ、ストーリーの怒涛度、サスペンスの強度、善悪や倫理の突き詰め方など、いずれもランズデールの中でも最高水準を行く。個人的にはこの作家最高の一作と考える。
というわけで、ファンは必読。ミステリ・ファンにも、ランズデールの異才振りが遺憾なく発揮された名品として、広くお薦めしたい。