不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

川の名前/川端裕人

川の名前

川の名前

 川端裕人は今回、川とペンギンをテーマに長編を書き上げた。つまり、アザラシならぬペンギンが近所の川に出現したらどうなるか、ということである。いや、これは表現が不適切であった。正確に言うと、そのような〈祭り〉を誘発しかねない状況下、ペンギンに最初から気付いていた小学生は何を考え、どう動くか。本当のテーマはそこにあり、少年たちの真心から出た行動を描ききるのである。
 文章は爽やかであり、何かを徹底的に抉ろうという偏執的な熱さはなく、あくまでも洗練されている。青春小説と呼ぶにはいささか幼い主人公たち(脩・河童・ゴム丸のトリオ)の勇姿は、あくまでも自然体の筆致で描かれる。そこには元気な少年たちがいるが、「あの頃は良かった」的な変な美化は皆無であり、老いて粘着度を増した私にさえ郷愁の念を抱かせない。とにかく終始一片の翳りもなく、楽しく読めるのである。ここでの少年たちは、「大きくなったら擦れてしまうかもしれない」という予感をまるで感じさせない。この純粋さを保ったまま、(変な意味ではなく)健やかに育っていくだろうことを予感させるのである。これには、脩の父(自然写真家)、河童の祖父(近所の自然愛好家)、ゴム丸の妹(障害者)の存在も大きい。この三名もまた自然体で純粋なまま生きている。彼らの息子や孫、そして兄である限り、少年三人組もまた純粋に成長してくれるだろうと確信させられるのである。
 もちろん、話自体が活き活きとしているのは言うまでもない。

 というわけで、本当に広範にお薦めできる小説だと思う。