不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

誰もわたしを倒せない/伯方雪日

誰もわたしを倒せない (ミステリ・フロンティア)

誰もわたしを倒せない (ミステリ・フロンティア)

 プロレス界を舞台とした本格ミステリ

 暑苦しい文章を予期したが、意外と筆致が冷静であり、理念を語る部分でさえ淡々としているのが面白い。不要な情念は込めないという感じだが、レスラーの言動は(私が格闘技に興味がないので、イメージでしかないが)いつも通り猛々しく、ここら辺のギャップというか対照が、物語にいい感じでリズムをもたらしている。本格としてのネタも水準は確保している。特筆大書すべき傑作ではないが、さりとて駄作でもない。興味を持った人は読んでみてもいいのでは?

 なお、笹川義晴の解説が熱い。ミステリとプロレスを無理矢理つなげようとしつつも、天秤がプロレスの方へ大きく傾いでいるのが楽しい。門外漢にもプロレス史をわかりやすく説明してくれるのも良い。もちろんご多分に漏れず、プロレス・ファンから見れば色々と問題のある〈歴史観〉なのかもしれないが、そこら辺は私も十年越しのミステリ読み&クラシック・リスナーなので、覚悟はしているし、問題となりそうなのがどこら辺かおぼろげには見当がつく。だがそれでもなお、この勢いのある解説は良いと思うのだ。作品自体を補完し、かつ作品本体よりも楽しいひと時が過ごせる傑作解説として、大いに推奨したい。